
50年代末のパリを舞台に、伝説のジャズ・ミュージシャンと彼の音楽を愛するフランス人の、音楽で結ばれた熱い友情を描いた、実話をベースにした人間ドラマ。主人公のモデルは“天才”と呼ばれたジャズ・ピアニスト、バド・パウエル。
ニューヨークから初老のサックス奏者デイル・ターナー(ゴードン)がパリのジャズ・クラブ“ブルーノート”にやってくる。今や酒に溺れる生活を送る彼だったが、その演奏は健在で、仲間達と毎晩素晴らしいステージを展開して行く。そんなある夜、デイルは彼の古くからのファンで、クラブに入る金もない貧しいグラフィック・デザイナー、フランシス(クリュゼ)と出会って意気投合し、翌日から彼を伴ってクラブに行くようになる。しかしデイルは仲間から止められている酒をしばしば飲んでは病院の御厄介になるようになり、彼の身を案じたフランシスは別れた妻から借金までしてデイルを献身的に守って行くのだった。そんなフランシスの姿に改心したデイルは身も心も完全復帰を果たし、ニューヨークでの活動を再開するため帰国することを決める。しかし帰国した彼を待っていたものは、荒廃した町並みに潜む“麻薬”と言う悪魔だった。
流れるようなカメラ・ワーク、数々のスタンダード・ナンバーを奏でるライブ・シーンと豪華な演奏者(ビリー・ヒギンズ、ウェイン・ショーター、ロン・カーター、トニー・ウィリアムズ、フレディ・ハーバード等)。そして“ブルーノート”やパリの下町を見事に再現した素晴らしいセットと、その絶妙な雰囲気の中で展開される、ジャズを通した心温まる日常生活の交流をゆったりとしたペースで描いた実に気持ちのいい作品。しかし何と言っても本作の成功のカギを握ったD・ゴードンの起用は、どんな名優によっても醸し出す事が出来ないであろう、ミュージシャン特有の雰囲気を一番に考えた監督の思い通りの結果を生み、本物のジャズ・マンであり映画初出演にしてアカデミーにノミネートさせた程のその存在感は“渋い!”の一言に尽きる(殆ど“地”のままと言う声もあるが)。スコセッシ監督一人の登場で“ニューヨーク”を表現した演出も見事。尚、豪華ミュージシャンの一人として出演し、音楽も担当したH・ハンコックは本作でアカデミー作曲賞を受賞している。